悪女について その二

暗い闇の中にいる人物に様々な方向から様々な色の光を当て,姿が鮮明になるよう重ねてゆく,そんな印象の小説だった.
ぼんやり,次第に鮮明に浮かび上がらせる.


この小説では様々な登場人物が,それぞれに「富小路 公子」の人物像について語る.
ある人は善人といい,別の人は悪人という.
結論を著者がまとめる文章はなく,また,公子本人による「自分はいかなる人間か」という文章もない.
結論は読者に委ねられている.


この小説は,人物の評価の難しさを表現しているように思う.

  • 思想・立場からくる印象の違い
  • 記憶の不確かさからくる勘違い
  • 見栄・悪意・保身からくる嘘
  • 好意・善意からくる嘘

結局,虚像だけが残るのではないだろうか.
そして,事実と虚偽の区別の難しさが際立つ.


人物評価の難しさ,他人の評価がいかにあてにならないかということについて考えるきっかけになる.


私は他人の人物評価を気にする.
その評価は信用に値しないのに.
その時点での,ある側面を捉えている可能性がある,といっただけの評価でしかないのに.

そんなことを考えた.


満足.面白かった.嬉しかった.繰り返し読む気になる一冊だった.


この小説は年月を置いて読み返す度,私の中で結論が変わるのかもしれないなぁ.